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特定取引所金融商品市場と特定投資家

金融商品取引法 2条32項 この法律において「特定取引所金融商品市場」とは,第百十七条の二第一項の規定により同項に規定する一般投資家等買付けをすることが禁止されている取引所金融商品市場をいう。

唐突ですが,「特定取引所金融商品市場」をご存知でしょうか。
あるいは「プロ向け市場」と云ったほうがピンとくる方も多いかもしれません。

金融商品取引法(旧・証券取引法)の平成20年改正で新たに設けられたのが「特定取引所金融商品市場」です[2条32項ほか]。プロ向け市場という表現からも分かる通り,参加資格を「特定投資家」(大雑把に云えばプロ投資家)などに限定しています。プロ向け市場は,莫大なコストのかかる発行開示や継続開示が免除され,取引所の自主的なルールのもとに情報の提供や開示がなされる仕組みとなっているのが最大の特徴です[27条の31ほか]。

そして,このプロ向け市場,実はきちんと存在しており,TOKYO PRO Market(旧称「TOKYO AIM取引所」)が日本で唯一の特定取引所金融商品市場として稼働しています*1

*1
本記事を執筆した2012年4月時点ではまだ「TOKYO AIM取引所」で,五洋食品産業も上場予定であったが,記事の公開を後回しにしたため,その後の動向に合わせて急遽一部を書き換えた。

TOKYO AIM取引所はロンドンのAIMに倣って2009年6月に開設されたものの,オープン後2年間はひとつも上場銘柄がないという非常に寂しい状況でした。2011年7月には創薬ベンチャー企業のメビオファーム【4580】が初の上場を果たしたものの後は続かず,ようやく2012年5月に2社目となる五洋食品産業【2230】が上場となりました。

なお,TOKYO AIM取引所は,2012年7月に東京証券取引所内部の市場となり,名称も「TOKYO PRO Market」へ変更されています。

さて,プロ向け市場と呼ぶからには当然プロしか参加できない市場のはずですが,実際のところは必ずしもその能力に見合わない投資者*2も参加することができます。前述の通り主な参加者は特定投資家(プロ投資家)になるわけですが,特定投資家は一般投資家(大雑把に云えばアマチュア)へ移行できない特定投資家と,移行可能な特定投資家の2段階に区別されています。

*2
金融商品取引法では広い意味での投資家を「投資者」と表記している。

特定投資家
(プロ)
一般投資家への移行 → 不可国,日本銀行,適格機関投資家
一般投資家への移行 → 可上場会社,資本金5億円以上の株式会社,地方公共団体など
一般投資家
(アマチュア)
特定投資家への移行 → 可上記以外の法人,一定の要件を満たす個人
特定投資家への移行 → 不可上記以外の個人

特定投資家のうち適格機関投資家は証券会社などがこれに該当します。よって一般投資家へ移行できない特定投資家,つまり国,日本銀行,証券会社などの適格機関投資家は文字通りのプロ中のプロです。こうしたプロ中のプロのみを対象に勧誘する場合は,適格機関投資家私募となります。

一方,一般投資家へ移行可能な特定投資家は必ずしもプロとしての知識や能力を備えているとは限りません*3。そのため適格機関投資家私募とは異なり,一定の情報等の提供・公表の仕組みが設けられています。

*3
名立たる企業や大学などがデリバティブによる巨額の損失を出したのを思い浮かべる人も多いだろう。

例えば人口3,000人の架空の地方公共団体・長門町(ながとちょう)を考えてみましょう。長門町のような所謂「田舎町」の町役場に金融や投資のプロがいるのはごく稀なケースです。プロ中のプロでも難しいのが投資です。そうした長門町が背伸びをしてプロとして市場に参加しても,良い結果を出せる可能性は極めて低いでしょう。そこで金融商品取引法では一定の情報等の提供・公表の仕組みを設けており,また一般投資家への移行も認めている,というわけです。

いまいち盛り上がりに欠ける特定取引所金融商品市場ですが,その登場が金融恐慌と重なってしまったのも大きく影響しているのは間違いないでしょう。景気が回復し,こうした市場にも活気が出てきてくれることを切に望みます。

復原工事中の東京駅
復原工事中の東京駅。2012年6月撮影。本文の内容とは特に関係がありません。;)

追記(2013年3月28日)

メビオファームがわずか上場1年半で上場廃止の申請を行なったとのことです。盛り上がりませんね…