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WEBLOG

新株予約権無償割当てによる買収防衛策と株主平等の原則

会社法109条1項 株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。

金融恐慌の影響もあってか、2006〜2007年をピークに企業買収に関する話題は落ち着いてきていますが、この頃に世間を賑わせた事件の多くは、会社法や金融商品取引法の改正、あるいは判例に大きな影響を与えました。そのひとつが今回紹介する「ブルドックソース事件」(最判平成19年8月7日)です。かなり意外な判決でしたでしょうか。

本件で争点(論点)となったのは、特定の株主による株式公開買付け(TOB)に対抗し、当該特定の株主の持株比率を低下させることを目的で、当該特定の株主とその関係者のみが新株予約権を行使できないことを条件とした新株予約権の無償割当てが、株主平等の原則(会社法109条1項)に反するのではないか、ということです。

買収者(スティール・パートナーズ)がその関連会社を通じて行なった買収対象(ブルドックソース)の株式を対象とした公開買付けへの対抗策として実施されたのが、前述の差別的な内容の新株予約権の無償割当てです。これだけですといわゆる事前警告型防衛策(日本版ライツ・プラン、ポイズン・ピルなどとも呼ばれる)じゃないかと思われるかもしれませんが、本件には以下のような特殊性がありました。

  1. 事前の予告なしに新株予約権無償割当てを決定した。
    (→ 事前警告型ではない)
  2. スティール・パートナーズとその関連会社(以下スティール)は新株予約権を行使できず、ブルドックソースが金銭を対価として取得する。
    (→ スティールを狙い撃ちしているが、何ら経済的損失を与えるものではない)
  3. 本件新株予約権無償割当ては、議決権総数の80%を超える賛成をもって株主総会の特別決議で承認された。
    (→ スティール以外の90%以上が賛成)

乱暴に云ってしまえば「カネをやるからスティールは早く出て行け!」といったところでしょうか。金銭を対価に取得するという条件についてもスティールの株式公開買付けの金額を元に算定したもので、経済的損失を与えるどころか、利益を出せるだけのものでした。スティール以外の90%以上の株主が賛成しているのでとやかく云うこともないのですが、単純に株式公開買付けに応じなければよかったのではないか、というのも往々にしてある疑問でしょう。

さて、こうした一連のブルドックソースによる買収防衛策は株主平等の原則に反するのではないか、とスティールは訴訟を提起したわけですが、最高裁は、会社の企業価値が毀損され、株主共同の利益(cf. 433条2項2号)が害されることになるような場合には、その防止のために当該特定の株主(スティール)を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、直ちに株主平等の原則には反しない、としました。

なぜならば、株主平等の原則は個々の株主の利益を保護するためのものであり、その個々の株主の利益は会社の存立や発展なしには考えられないからです。つまり、敵対的買収などによって企業価値を損ない、会社の存立が危うくなったりしては元も子もない、ということでしょうか。

『株主平等の原則は、個々の株主の利益を保護するため、会社に対し、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを義務付けるものであるが、個々の株主の利益は、一般的には、会社の存立、発展なしには考えられないものであるから、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の存立、発展が阻害されるおそれが生ずるなど、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない』

また、こうした会社の企業価値の毀損によって、株主共同の利益が害されるか否かについては、最終的には、(裁判所などではなく)会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきもので、当該株主総会における判断は尊重されるべきだとしています。

『特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては、最終的には、会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものであるところ、株主総会の手続が適正を欠くものであったとか、判断の前提とされた事実が実際には存在しなかったり、虚偽であったなど、判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り、当該判断が尊重されるべきである』

余談になりますが、この判決については、あまりに保主的で最高裁は最終的には日本企業を護るのではないか、あるいは逆に対価の容認をしたことでグリーンメーラー*1を助長しかねない、などさまざまな批判が内外であったようですが、最高裁判決ですのでもちろん重いものです。

*1
上場会社の株式を買い集め、その影響力を利用して、当該会社やその関係者に高値での取引を迫る者。

オススメ書籍
株式会社法』江頭憲治郎(有斐閣)
法律学講座双書 会社法』神田秀樹(弘文堂)
リーガルクエスト 会社法』伊藤靖史, 大杉謙一, 田中亘, 松井秀征(有斐閣)